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岡山地方裁判所 昭和44年(行ウ)25号 判決

岡山市十日市中町一五の六二

原告

岡田春雄

右訴訟代理人弁護士

出射虎夫

同市天神町三―二三

被告

岡山税務署長

梶原茂

右指定代理人

清水利夫

同右

門阪宗遠

同右

藤森義明

同右

島津巌

同右

三坂節男

主文

1  原告の本件訴のうち、本件昭和四三年一月九日付更正並びに賦課処分のうち所得金額三五三万六七四〇円所得税額九二万二四〇〇円、過少申告加算税額四万六一〇〇円を超える部分の取消を求める部分は、これを却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判および主張は、別紙要約調書のとおりである。

二  証拠

(原告)

1  甲一、二号証

2  原告本人尋問の結果

3  乙一号証、三号証の一ないし五、七ないし一三、一五、一六、一九、二〇、二五ないし三四、四四、四号証、一一号証の一ないし五の各成立を認め、三号証の六のうち領収の日付スタンプ印部分の成立は認め、原告の署名部分の成立は否認する。その余の乙号各証の成立は不知。

(被告)

1 乙一、二号証、三号証の一ないし四四、四ないし一〇号証、一一号証の一ないし五

2 証人長谷川寛吾、同前原豊の各証言

3 甲一号証の成立は認め、二号証の成立は不知。

理由

一  原告主張一の事実は、当事者間に争いがない。

二  右事実によれば、原告の本件訴のうち、本件更正並びに賦課処分中所得金額三五三万六七四〇円、所得税額九二万二四〇〇円、過少申告加算税額四万六一〇〇円を超える部分の取消を求める部分は、既に被告が昭和四三年七月一五日付でその取消をしているので、訴の利益を欠き、不適法として却下を免れない。

三  よつて、進んで本件更正並びに賦課処分(右訴却下の対象とならない部分)の取消原因の有無を判断する。

(一)  農業所得

当該年度中に原告申告のとおり農業所得六万一三四〇円のあつたことは、当事者間に争いがない。

(二)  譲渡所得

被告主張三の(一)の事実のうち原告が訴外金沢育能と面識があつたこと、本件土地について被告主張どおりの所有権移転登記がなされていること、アパート新築工事は長谷川寛吾が施工したこと、同三の(二)の事実のうち本件土地が地目変更後埋立てられ前原豊に引渡されたこと、同四の冒頭の事実のうち本件土地の売買代金の領収証が長谷川または同人代理人原告名義であることはいずれも当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない甲一号証、乙一号証、乙三号証の二ないし五、七ないし一三、一五、一六、一九、二〇、二五ないし三四、四四、乙四号証、乙一一号証の一ないし五、領収の日付スタンプ印部分の成立は争いがなく、その他の部分は証人前原豊の証言により真正に成立したと認める乙三号証の六、同証言によりいずれも真正に成立したと認める乙三号証の一四、一七、一八、乙五号証、証人長谷川寛吾の証言によりいずれも真正に成立したと認める乙三号証の二一、乙七、八号証、乙一〇号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認める乙二号証、乙三号証の二二ないし二四、三五ないし四三、乙六号証、乙九号証、証人前原豊、同長谷川寛吾の各証言、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和三八、九年頃土地ブローカーのようなことをしていたが、かねて面識のあつた訴外金沢育能が同人及び訴外金沢勝野、同金沢一子、同小野秀子四名共有にかかる本件土地を売却し、その代金をもつて岡山市七日市堀内地内に右金沢育能、金沢勝野、金沢一子三名共有のアパートを建築したい意向であることを知り、右アパート建築工事を請負い、その工事代金で本件土地を買入れ、これを転売して利益を得ることを企てたが、右土地買入並びに売却に際し、自己が真実の買主或いは売主であるのに、表面上買主或いは売主となることを避け、かねて原告から建築請負仕事を世話してもらつたこと等のある建設業者訴外長谷川寛吾に右表面上の買主或いに売主となることを依頼して、その承諾を得た。したがつて、以下の実際の売買交渉、契約等一切はもつぱら原告がしたのであるが、まず昭和三八年一一月八日前記金沢育能ら四名から長谷川を買主として本件土地を代金坪当一万八〇〇〇円、実測三九八坪分合計七一六万四〇〇〇円で買入れる契約書を作成して、本件土地の買入契約を成立させた。

そして、原告は、これと並行して前記金沢育能ら三名から前記アパート建築工事を代金七〇六万三一六〇円請負い、これを長谷川に施工させ、その頃双方合意のうえ右本件土地代金債権と右請負工事代金債権とを対当額で相殺した。

2  他方原告は、右土地買入契約成立の頃から早くも本件土地の転売先を物色し、同月一七日には、訴外前原豊との間において売主名義を長谷川、買主名義を前原の妻訴外前原二三子とする売買契約書を作成して、前記金沢ら長谷川間の農地転用許可後、長谷川が金沢らからの所有権移転登記を経たのち、買主側が長谷川から所有権移転登記を経由することを約したうえ、代金一一七二万五〇〇〇円(坪当二万五〇〇〇円、四〇九坪分合計一〇二二万五〇〇〇円とあつ旋料名義一五〇万円との合計)で本件土地を右前原豊に転売する契約を成立させた。

右売買代金の領収証は、最終回昭和三九年四月二七日付原告発行名義のものを除き、前記契約書上の買主名義に合わせて、長谷川または長谷川代理人原告の各名義で発行されているが、前原豊が原告に対して支払つた右代金は、いずれも原告の岡山相互信用金庫本店預金口座或いは原告が長谷川名義で取引する前同預金口座に預け入れられる等して、実際には、昭和三八年一一月一七日から昭和三九年四月二七日までの間に原告がこれを取得した。

3  前記金沢らからの本件土地買入に関する農地法五条一項の規定による岡山県知事の許可は譲渡人前記金沢育能ら四名、譲受人長谷川として、ようやく昭和三九年二月二九日になされ、同年三月一四日前記金沢育能ら四名から長谷川名義に所有権移転登記がなされた。

その後、前記本件土地転得者前原豊は、本件土地を他へ転売した際、前記前原二三子ないし自己が登記上あらわれることを避け中間省略登記の方法により買主に所有権取得登記を経由させることにし、長谷川は登記上の所有名義人に過ぎないが、右中間省略登記に同意協力する対価として、同人に対し三〇万円を支払つた。

4  なお、本件土地は、前記前原豊に対する転売契約の成立をみた当時、田地であつたが、前記県知事の許可後、原告が売主よりその引渡を受け、原告において前原豊から土入れ埋立工事代金四六万六〇〇〇円で請負い、これを施工したうえ、前原豊に引渡された。

以上のとおり認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、前掲諸証拠に照らして容易に措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によれば、原告は長谷川寛吾の名義を使用して、本件土地を昭和三八年一一月八日前記金沢育能ら四名から代金七一六万四〇〇〇円の出損により買入れ取得し次いで、同月一八日これを前原豊に代金一一七二万五〇〇〇円で転売し、右転売時において本件土地譲渡による所得があつたと認められ(和四〇法三三号による改正前の旧所得税法三条の二(現行所得税法一二条)参照、原告主張五は主張じたい明らかでないが、仮に経費の主張としても、全く証拠を欠き、理由がない。

そして、右譲渡経費として九三万五六〇〇円計上すべきことは、被告の自認するところであるから、本件譲渡所得額は、別表記載の譲渡所得摘要欄の計算により三四七万五四〇〇円となること明らかである。

四  したがつて、被告主張の所得控除をすれば、係争年度の原告の所得税の課税所得金額、所得税額、過少申告加算税額は、被告主張のとおり計上される。

五  そうすると、被告のなした本件更正並びに賦課処分(前記一部取消された部分を除く。)は適法であるから、その取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

よつて、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田孝 裁判官 米沢敏雄 裁判官 鈴木敏之)

別紙

要約調書

第一 当事者の求めた裁判

(原告)

被告が、原告の昭和三九年分所得税について、昭和四三年一月九日付をもつてなした更正処分および加算税賦課決定処分はいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二 当事者の主張

(原告)

一 原告は、昭和四〇年三月一四日、被告に対し、昭和三九年分所得金額六万一三四〇円(課税所得額零)の所得税確定申告書を提出したところ、被告は、昭和四三年一月九日付をもつて、原告の昭和三九年分所得税につき、所得金額四四七万三〇六七円、所得税額一三〇万二九〇〇円とする更正処分および過少申告加算税六万五一五〇円とする賦課決定処分をなした。原告は、右処分を不服として被告に対し異議を申立てたところ、被告は、昭和四三年七月五日付で右処分を一部取消し、所得金額三五三万六七四〇円、所得税額九二万二四〇〇円、過少申告加算税四万六一〇〇円とする決定をなした。原告はなおも不服であるため、同月二二日、広島国税局長に対し、審査請求をしたところ、同国税局長は同年一二月一〇日付をもつて右請求を棄却し、その旨原告に通知した。

二 しかし、被告の昭和四三年一月九日付更正処分および賦課決定処分は、一部取消された限度においてもなお違法であるから、これの取消を求める。

三 被告の主張に対する答弁および反駁

(一) 被告主張二の事実中、農業所得の点を認め、その余の事実を否認する。

(二) 被告主張三の(一)の事実について

原告が金沢育能と面識があつたとの点、移転登記の点およびアパート新築工事は長谷川寛吾が施工したとの点を認め、県知事の許可の点は不知、その余の事実はすべて否認する。

本件土地を金沢育能外三名から買受けた実質的買主が長谷川寛吾であり、原告ではないことは、乙第一号証の売買契約書により明白である。右契約書は登記申請のためのいわゆる原因証書ではなく、売買取引の実体的関係を表明した契約書である。長谷川寛吾は、当時、同人の郷里小田郡美里町上高末で所有していた農地、宅地等を売払い、その代金で岡山市近郊の土地を買入れる意図を有していたため、本件土地を買受けたものであり、同人は金沢育能らから本件土地を坪二万円で買受けた。そして、同人が金沢育能らからアパートの新築工事を請負うとともに、右請負工事代金を本件土地買受代金の一部と相殺したものである。

(三) 同三の(二)の事実について

本件土地が地目変換後埋立てられ前原豊に引渡されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件土地を金沢らから買受けたのは長谷川寛吾であり、前原豊に転売したのも同人である。前原豊から長谷川寛吾に対する代金の支払過程において、原告が介入しているが、それは原告が、本件売買の立会人であるからである。

(四) 同四の冒頭事実について

本件土地の売買代金についての領収証が長谷川寛吾または長谷川寛吾代理人岡田春雄名義であることは認めるが、前原豊から長谷川寛吾に支払われた金員がすべて岡山県商工信用組合に預金されたという事実はなく、まして同組合に対する預金が原告に帰属するものでは断じてない。

(五) 同四の(一)の事実について

昭和三八年一一月一七日、長谷川寛吾名義の領収証で一七五万円が受取られていることは認めるが、右一七五万円は、長谷川自身が同人の印鑑を持参して同人の預金口座に預入れたものである。また、昭和三九年五月二三日、原告が右預金から五〇万円引出した事実はない。原告が同日、原告の当座預金口座に五〇万円入金したことは認める。

(六) 同四の(二)の事実について

認める。右は、原告が長谷川の承諾を得て、原告の長谷川に対する貸金の一部弁済として受領したものである。

(七) 同四の(三)の事実について

認める。原告の長谷川に対する立替金の一部の返済を受けたものである。

(八) 同四の(四)の事実について

不知。

(九) 同四の(五)の事実について

長谷川寛吾名義の領収証で受取られた六二五万円のうち三〇〇万円が原告名義の通知預金とされていることは認めるが、右は、原告が長谷川から一時預託されてなしたもので、同月二八日右三〇〇万円は長谷川に返金した。

また、原告が、昭和三九年三月二七日に当座預金に預け入れた三〇〇万一五九六円は、当時原告が原告所有の土地を下津井電鉄株式会社に売渡した代金の一部であつて、長谷川寛吾の受領金の一部ではない。

(十) 同四の(六)の事実について

原告名義の領収証で受取つた二二万五〇〇〇円については、長谷川に交付している。

(十一) 同五の事実について

売買契約等の交渉および売買手続を原告が主導権をもつて行ない、譲渡代金はすべて原告が収受し運用しているとの点を否認する。

四 以上、本件土地を転売したのは長谷川寛吾であつて原告でないことは明らかであるが、仮りに、前原から長谷川に対する代金支払過程において、立会人である原告の介入の程度が大きいため、原告が本件土地の取引における実質的所得者ではないかと疑いうる余地があるとしても、国税庁長官通達一五七により「実質的所得者であるかが明らかでない場合」として名義上の所得者によるべきで長谷川寛吾を所得者とすべきである。

五 仮りに、百歩譲つて、原告が本件土地につき、金沢らよりの実質的買主であるとともに、前原に対する実質的売主であるとしても、原告は、右立場において、右売買取引等から生ずる収益を享受していない。すなわち、前原豊は、農地の買主となるべき農地法上の適格を有しなかつたので、本件土地を宅地にして後前原に売る必要があり、原告は長谷川からも前原からも宅地形成の工事を依頼され、前原から本件土地の代金の一部として受領した一七〇万円位は、本件土地の地盛、土止めおよび架橋工事等宅地形成のための諸工事費に費消しており、本件土地の取引で収益を得ていない。したがつて、所得税法第一二条第一項に定める収益享受者ではないから、原告に対する本件課税処分は違法である。

(被告)

一 原告主張の一の事実を認め、同二の事実を争う。

二 被告が、原告の昭和三九年分所得金額につき調査したところ、原告は、申告農業所得のほか、昭和三九年二月頃、長谷川寛吾名義で、訴外金沢育能ほか三名の所有する岡山市十日市字末政五二番一田一反三畝二二歩(以下単に、本件土地という)を代金七一六万四〇〇〇円で買受け、同月頃、本件土地を訴外前原二三子(実質は前原豊)に対し、代金一一七二万五〇〇〇円で売渡し、譲渡所得を得ていることが判明した。その内訳および計算関係は別表のとおりである。

したがつて、被告がなした本件処分は、異議申立決定により減額される限度で適法であるから、原告の請求は理由がない。

三 原告が本件土地を取得および譲渡した経緯は次のとおりである。

(一) 原告は、従来より面識のあつた訴外金沢育能が、その所有にかかる土地を売却してアパートを建築したい意向であることを知り、同人より右アパートの建築工事を請負い、その代金で同人より土地を買受けてこれを転売しようと考え、昭和三八年一一月八日、訴外長谷川寛吾名義で、金沢育能外三名から本件土地を七一六万四〇〇〇円で買受けた(昭和三九年二月二九日、農地法第三条による県知事の許可がなされ、同年三月一四日付で長谷川名義に所有権移転登記がなされた。)。そして、原告は金沢育能外三名からアパートの新築工事を代金七〇六万三一六〇円で請負つて右請負工事を長谷川寛吾に施行させ、本件土地の買受代金は、右請負工事代金で相殺する方法をとつた。そのため、原告としては、請負工事所要の資金を工事の進ちよくに見合つて順次調達すればよかつた。

(二) 一方、原告は、請負工事の資金を確保するため、金沢育能との交渉と併行して本件土地の売却先を物色し、昭和三八年一一月一七日、訴外前原二三子(実質は前原豊)に代金一一七二万五〇〇〇円で転売した(但し、前記同様、名義は長谷川寛吾)。そして、本件土地は、昭和三九年三月一八日、県知事から農地法第五条の規定による地目変換許可を得て埋立てた後、前原豊に引渡しがなされている(埋立費用四六万円は、前原豊が本件土地代とは別に支払つている。)。

四 右事実は、前原に対する本件土地の売却代金が、領収証名義は長谷川寛吾ないし長谷川寛吾代理人岡田春男名義で発行されてはいるものの、その代金はすべて原告管理のもとに岡山県商工信用組合に預金されており、原告に帰属するものであることからも明らかである。すなわち、

(一) 昭和三八年一一月一七日、長谷川寛吾名義の領収証で受取られた一七五万円は、同日開設された同人名義の普通預金口座(口座番号六〇八〇)に預け入れられている。しかし、このことにつき、長谷川寛吾は全く関知しない。

なお、右預金が原告の仮装名義預金であることは、長谷川寛吾において原告に支払うべき債務がないにもかかわらず、昭和三九年五月二三日、同口座から五〇万円が引出されており、その五〇万円が同日原告名義の当座預金口座(総綴込カード番号一九九)に入金されている事実に徴しても明らかである。

(二) 昭和三八年一二月一〇日、長谷川寛吾代理人岡田春男名義の領収証で受取られた一〇〇万円については、そのうち四〇万円が同日原告名義の普通預金口座(口座番号三九二四)に預け入れられているとともに、残額をもつて、同日右組合の原告に対する手形貸付による負債の返済に充てられている。

(三) 昭和三八年一二月二一日、長谷川寛吾代理人岡田春男名義の領収証で受取られた一〇〇万円は、同日原告名義の前記当座預金口座に預けられている。

(四) 昭和三九年三月一八日、長谷川寛吾名義の領収証で受取られた一五〇万円については、預金先は不明であるが、金沢育能外三名から請負つたアパート建築工事が始つていた時期でもあるので、工事施工者である長谷川寛吾に材料代として支払われたことがうかがえる。

(五) 昭和三九年三月二一日、長谷川寛吾名義の領収証で受取られた六二五万円については、うち三〇〇万円が同日原告名義の通知預金とされ(昭和三九年三月二八日解約払出し)、また、同月二七日に三〇〇万一五九六円が原告名義の前記当座預金口座に預け入れられている。

(六) 昭和三九年四月二七日、原告名義の領収証で受取られた二二万五〇〇〇円については、預金先は不明であるが、(四)のなお書と同様の趣旨で使用されたものとうかがえる。

なお、埋立費用四六万円については、昭和三九年四月二七日、原告名義の領収証で三七万五〇〇〇円受取られ、残額八万五〇〇〇円は前原豊が立替えた原告の飲食代と相殺している。

五 以上のように、契約、所有権移転登記、農地法に基づく許可申請等の名義は長谷川寛吾で、名義上は同人が本件土地を取得し譲渡したこととなつているが、売買契約等の交渉および売買手続は原告が主導権をもつて行なつており、かつ、譲渡代金はすべて原告が収受し運用しているものである。

ところで、旧所得税法第三条の二(現行所得税法第一二条)の規定によれば、「資産又は事業から生ずる収益の法律上の帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、当該収益を享受せず、その者以外の者が当該収益を享受する場合においては、当該収益については、所得税は、その収益を享受する者に対して課するものとする」と定めており、収益の享受者に対する実質的所得者課税の原則を明らかにしている。よつて、本件の事実関係に照らし、原告に譲渡所得を課税した本件処分が適法であることは明らかである。

別表

課税標準等および税額等調

〈省略〉

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